余計な学習はするな(リスニング編)

余計な学習はするな(リスニング編)

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以前から良く聞くリスニング学習の方法として、通常よりも速度を速くして再生する、というものがあります。場合よっては2倍ほどにするようです。個人的には大変疑問を感じる(すぐにやめた方が良い)学習法であり、私個人の見解を述べておきたいと思います。

1. 細部の理解度向上につながらない

リスニングのスピードアップを主張する人の意見には、通常の速さに戻した時に、聞くことが楽になる、というものがあります。しかし、通常のスピードで完全には聞き取れない音源を速くしたところで、細かい部分が聞き取れるはずがありません。(一文ずつゆっくり読んでも正確に意味がとれないのに、無理やり速読をして、なんとなく意味をとる学習法に似ています。)

速い速度の音源を聴いた後に通常の速さの音声を聴けば、ゆっくり聞こえるのは当たり前です。ただ、それは相対的に遅い、と感じるだけであり、英語自体が聞こえるようになることとは関係がありません。

母語を習得する時、または英語圏に長期留学する時のことを考えてみましょう。リスニングの基本は、とにかくたくさんの英語を聞くことです。通常の生活をしていれば、不自然にスピードアップされた英語を聞く機会は皆無です。それにもかかわらず、母語を習得する時も、留学の時も、リスニング力は飛躍的に伸びるのです。

2. 自然な英語のリズムが失われる

高速再生リスニングの別の問題点は、英語のリズムを無視していることです。英語は、1語ずつ均等に読まれるのではなく、リズムがあり、短い音はまとめて短く発音されます。例えば、on of them というフレーズを読むとしましょう。日本人的発音では、ワン・オブ・ゼム と一語ずつ均等に発音します。しかし英語では、ワンのnの音と次の母音oの音がくっつきます。さらに、fの音は、上の歯を下唇の内側にあてるだけの音で、後に母音は入りません。結果として、正しいリズムでは、ワノブゼム のような音に聞こえます。

教材英語で初級者向けにゆっくり発話している英語であっても、上で述べたようなフレーズは、つながって発音されます。どんなにゆっくり読まれていても、ワン・オブ・ゼムとは発音していません。ネイティブにとっては一つのまとまりですので、これ以上分解しようがないのです。

そのようなまとまって比較的速く読まれる部分を、高速再生してみるとどうなるでしょうか。自然な英語のリズムが失われるだけでなく、学習者にとっては極めて聞き取りにくい音のまとまりにもなります。不自然なリズムで読まれる英語を繰り返し聞くことによる弊害も、考えなければいけないでしょう。

3. 世界の言語習得の研究で注目されていない

最後に、この方法が、世界の言語習得の研究では(おそらくまったくと言っていいほど)注目されていない、という点も重要です。私は、第二言語習得(TESOL)に関してアメリカの大学院で学び、これまで多くの本、論文を読んできましたが、リスニングの際に再生速度をあげるように勧めている記述は一切ありませんでした。私の勉強不足かもしれませんが、少なくとも、スタンダードなリスニング学習法からはかけ離れたものであることは確実です。

もし、それほど効果のある優秀な方法であるならば、世界中で研究している学者が気づいていないはずがありません。日本という、日常リスニングをする機会を見つけることが難しい環境の中で、学習者(もしくは指導者)が科学的な裏付けなしに考え出した方法であり、そのような学習法に画期的な効果があるとは思えません。

それよりも、まずは「自分のレベルに合った英語をたくさん聞く」というリスニングの基本中の基本をするべきでしょう。私自身も、たくさん聞くことを中心にリスニング学習を行い、結果として、どんな状況でもほぼ困らない程度のリスニング力は身につきました。

リスニング学習用に、再生速度を変えることのできる高価な機材を多く見かけますが、まったく必要のない機能です。リスニングであれば「とにかくたくさん聞く」、という当たり前の学習法をきちんと実行することこそが、英語力向上の秘訣です。私のホームページ「英語高地トレーニング」も参考に、正しい学習法を身につけ、実践していってください。