私の多読の経験


私の多読の経験

大学入学時の英語力

大学に入学が決まった頃から、私は雑誌や本を英語ですらすら読めるようになりたいと思っていました。
いずれ留学することに決めていましたから、その前にリーディングだけは鍛えておく必要があると思ったのです。

大学受験では、かなり偏った英語の勉強をしていました。
いわゆる文法・語法問題はほとんど解かず、文を正確に読むための練習(英文解釈)をひたすら勉強していました。
解釈がある程度できるようになってからは、音読を繰り返すことと、文と文のつながり、パラグラフ内部の構造、パラグラフ間の関係を分析しながら読む練習を行いました。
単語は、全て長文の中で覚えるようにしました。

このおかげで、受験レベルでは高度な英文まで1文ずつ正確に読め、文の展開を把握できるようになりましたが、読解スピードは遅く、単語力は圧倒的に不足していました。
模試の文法問題はいつも10問中4問しか正解していませんでした。(長文で稼いでいたため、偏差値は70以上はありましたが…)
単語はおそらく3,000~4,000語しか知らなかったでしょう。
受験のやや難しめの長文を読むスピードは1分間にせいぜい50~60語だったと思います。

多読に挑戦するが…

この頃、何度かTIMEを買って挑戦してみましたが、一つの記事も読めませんでした。
1パラグラフが100語の場合で、その中の20語近くがわからなかったのです。
つまり、知っている単語は文全体の80%くらいでした。
この状態だと、3,000語近くあるような記事を推測しながら読むのは不可能に近く、辞書を使おうにも、調べる単語が多すぎて嫌になってしまいます。

Nation(2001)によると、文全体の80%の単語を知っている状態での十分な理解は不可能で、知っている単語が90%だとごく少数の人だけ理解できる。
95%だと理解できる人がもう少し増えるが、その割合は低い、という研究結果が出ているようです。
辞書なしですらすら読み、理解するためには、少なくとも文全体の98%の単語を知っている必要があるようなので、当時の単語力でTIMEを読むのは無謀だということがわかると思います。
TIMEを読むのに必要な語彙数は?」を合わせて読んでみてください。

学習法について悩む

また、この頃読んだいくつかの英語学習法についての本に正反対のことが書かれていて、どちらを選ぶべきかでその後数年間悩み続けました。
1つは、「文章をたくさん読むことが大切で、辞書はなるべく使わない方が良い」というもので、もう1つは、「文章の中で知らない単語に出会ったら必ず辞書を引いて確認する」というものでした。

その時の私の単語力では、辞書を使わないで読むことは非常に難しく、同時に、知らない単語を全て辞書で調べながら読むことも同じくらい難しいことでした。
Reader’s Digestを読む時に、試しに知らない単語を全て調べて読んでみたことがありますが、1ページに少なくとも20~30語、3~4ページにわたる記事で軽く100語以上の未知語があったことを覚えています。
英字新聞を数ヶ月間、定期購読したりもしましたが、ほとんど読めないままでした。

単語を大幅に増やす必要があることはわかっていましたが、単語と日本語訳だけをひたすら覚える勉強は大嫌いで、ほとんど意味がないと思っていた(実際には効果はあります)ので、文章の中で単語が覚えられる単語集を買い、1年で1,000語近くを覚えました。
それでも、雑誌や新聞をすらすら読むレベルには到底達していませんでした。

最初の1冊

大学2年~3年にかけて1年間、スポーツジムでインストラクターのバイトをしました。
トレーニングについては(立ち読みを含め)多くの本を読み、かなり詳しくなっていました。
その頃に、ジムで1人のアメリカ人と知り合いになり、英語で書かれたトレーニングの本を紹介してもらいました。

それまではReader’s Digestの記事1つを1時間かけて読むのがやっとのレベルでしたので、300ページ以上もある英語で書かれた本を1冊読むなんて想像もできないことでした。
ところが、読み始めて驚きました。英語が読めるのです。
知らない単語は多かったのですが、何しろテーマがトレーニングのことです。
わからない部分も推測できました。
また、トレーニング用語は英語がそのままカタカナで使われていることも多く、すんなり理解できました。

読書の楽しさに気づく

多少難しくても読み続けられた最大の理由は、読むのが楽しかったからでした。
それまで、日本の雑誌や本でトレーニングについては知らないことはないくらい読んでいましたが、その本に書かれていたのは、日本の書籍には全く書かれていない考え方でした。
そのことについてもっと知りたいという気持ちがあったので、辞書を使ってわからない単語全てを調べるなんてしたくありません。
どうしても意味がわからない時だけ辞書を使う、という読み方を自然にするようになっていました。
とは言っても、細かい部分は気にしないで辞書はほとんど使いませんでした。

このようにしてその本の大部分を読んだ時、大きな自信がついたことを覚えています。
内容が気に入って後になって何度も読み返した部分もあります。
この1冊を読めたことで自分にも本が読めるということに気づき、新しいことを知るためにもっと英語を読みたい、という思いが出てきました。
もっとも、この時点で読める本といったらトレーニング関係のものだけでしたが…

多読の開始

自分でも英語の本が読める、と気づいた私は、大学2年の後半から3年の終わりにかけて、たくさんのトレーニングの本を英語で読みました。
それらの本の全ページを読んだわけではありませんが、10冊は読みました。
またトレーニング関係のホームページに載っている記事をどんどん読んでいました。

この頃は、書かれている内容について早く知りたかったので、辞書なんか使っている暇はありませんでした。
わからない部分は読み飛ばして、概要をつかむことだけに集中していました。
英語を勉強しているという意識は全くありませんでした。

もちろん、1日に何時間も英語を読んだわけではないですが、暇な時は英語を読んでいることが多い時期でした。
大学の授業は正直つまらないものも多く、出席を最後に取るだけの授業では、出席を取る直前まで大学の食堂で読書をし、出席を取らない授業には出ないで、ずっと食堂で英語を読んでいました。
その結果、単位を落とした授業がいくつかありましたが、おかげでリーディング力はだいぶ伸びました。

トレーニング関係の本の多読によって語彙がだいぶ増え、この頃には簡単な小説ならなんとか読めるようになっていました。
読むスピードは遅く、辞書をちょこちょこ使いながらでしたが、400ページ以上ある小説を読むことができました。
同じ時期に、以前は満足に読めなかったReader’s Digestに再度挑戦し、辞書を使いながら何とか読めるような状態になりました。

自分の読み方がわかる

この時に意識したのは、全ての単語を調べる必要はない、ということと、調べた単語を覚える必要はない、ということです。
この2つの方針で読むようになってから、単語を覚えなければいけないというプレッシャーを感じずに雑誌を読むことができるようになっていました。

数年間悩み続けた「文章をたくさん読むことが大切で、辞書はなるべく使わない方が良い」、「文章の中で知らない単語に出会ったら必ず辞書を引いて確認する」という2つの相反する考えに対する私の答えは、その中間を取ることだったのです。(これは、多くの学習者にも当てはまると思います。)

ただし、初めの頃は知らない単語が多く、Reader’s Digestの1ページに10分近くかかっていて、3~4ページの記事を読むのにかかる時間は30~40分でした。
大学4年の終わり頃には、1ページ5分くらいにはなっていました。

大学4年時の多読

大学4年の授業で多読指導について学び、それまで自分が行ってきた勉強が多読であることを始めて知りました。
多読では簡単な本を読むことにも効果があるということがわかり、graded readersやネイティブの子ども向けの本、特に自分が子どもの頃に日本語で読んだ本の英語版を何冊も読みました。

多読の本の選び方は、SSSのサイトを参考にしました。
graded readersはオックスフォードから出版されているものを使いました。
レベル3を1冊だけ読み、レベル4、5と進み、すぐにレベル6を問題なく読めるレベルになりました。
レベル6にもなると、本格的な小説のような雰囲気を味わえます。
子ども向けの本も10冊以上読みました。
中には本文全ての朗読が入っているCDを売っている本もあり、読み終わった後にはそのCDを何度か聞きました。
(今更ですが、この時期に十分にCDを聞き込んでおけば留学でそれほど苦労しなかっただろうに、と思います。)

それと同時に、留学してから英語の論文や本を読んでも困らないようにと、英語教育関係の本や、多読に関しての英語の本、論文をできるだけ読みました。
もちろん、Reader’s Digestは少しずつ読み続けていて、一般向けの小説もこの頃に何冊か読んでいます。
ただし、語彙レベルの高い小説には歯が立たず、1ページ読んであきらめたものもあります。

読解速度が上がる

大学4年での1年間が、最も英語を読んだ時期だったと思います。
速読のトレーニングはしませんでしたが、大学卒業の頃には、簡単なものを1分間に140~150語の速さで読めるようになっていたようです。

TIMEの定期購読

留学中、そして留学から帰ってしばらくはリスニング中心の学習で、ほとんど英語は読みませんでした。
その後すぐに教員の仕事を始め、英語を読む機会はほとんどなくなっていました。
留学から帰って1年ちょっとした時、ふとしたきっかけでTIMEを読んでみました。
この時はTIMEはまだまだ読めない、と思っていたのですが、辞書を使いながら数日で、1冊全て読みきることができました。
これに気を良くしてすぐにTIMEの定期購読を始めました。

購読開始から1年ほどは、1冊全てを読んでいませんでした。
勤務先の学校が変わり、授業準備に多くの時間がかかったからと、興味のある記事を中心に読もうと考えたからでした。
しかししばらくして、興味のある記事だけ読むのであったら、ほとんどの記事を読めないことに気づきます。

TIMEでは国際的な政治についての記事が多いのですが、例えば国の名前と場所だけをかろうじて知っているようなあるアフリカの国の首相についての特集に、いきなり興味を持つ人はそうたくさんいないでしょう。
少なくとも、私はそのような記事に興味を持てませんでした。
仕方なく、TIMEを読む時には興味があってもなくても、わかってもわからなくても全ての記事を読むようにしました。

初めのうちは1冊全てを読んでも、全くわからない記事はけっこうありました。
特に映画についての特集等があると、記事に出てくる俳優や映画のタイトルの名前がことごとくわかりません。
アメリカ国内の政治の話題でも苦労しました。
それでも、とにかく全て読むことを続けていると、TIMEの文体や扱うテーマに慣れ、繰り返し扱われるテーマについての記事は少しずつ正確に読めるようになってきました。

定期購読から数年たってようやく、どの記事でも一定以上の理解をしながら読めるようになったと思っています。
同時に、2010年頃からほぼ毎日NPR NEWSを聞いています。
アメリカ国内で放送されているラジオ番組をそのまま聞けるので、ラジオで聞いた話がTIMEに出てきたり、TIMEで読んだ話がラジオで出てきたりと、知識を補うのに非常に効果的でした。

私のTIMEの読み方

私がTIMEを読む時は、次のような方針で読んでいます。

  • 気が向いたら辞書を使う、気が向かなければ使わない。
  • 調べた単語を無理に覚えようとしない。
  • 時間を測って速読する時は辞書を使わない。
  • 理解していてもしていなくても、同じ記事は1度しか読まない。
  • カフェで読む。

しっかり読みたい記事では辞書をわりと頻繁に使い、適当で良い場合はスピード重視で読むことになります。
この2つの読み方を組み合わせながら、1冊を読むスピードは3時間前後です。
2011年の夏に、1日で1冊読破に挑戦したことが何度かあり、その時は2時間半で全部読めました。
現在ではそれほどスピードにこだわらず、内容についてもっと知りたい時は電子辞書の百科辞典で調べながら読むこともあります。
長めの記事がある場合は、時間を測って辞書を使わずに一気に読むようにしています。

カフェで読むのは、長時間集中するためです。
家で読むと、30分も読んだら気が散って別のことをしたくなります。
カフェに行けば、他にすることがないのでTIMEを読まなければなりません。
それに毎回コーヒーを買っているので、その分勉強をしないともったいないという気持ちになり、集中力が続くのです。こうすれば短い時でも1時間、長い時だと2時間半くらい読めます。
疲れた時は合間にNPR NEWSを聞いてからまたTIMEを読むこともあります。

現在でもTIMEを中心に読んでいて、小説や一般向けの本は年間に数冊程度です。
比較的時間がある時にはSCIENTIFIC AMERICANやReader’s Digestを読むこともあります。
Reader’s Digestは日常生活に関係のある語彙が多く、TIMEを読んでいるだけではなかなか出会わない表現や話題が多くて面白いです。
私の感覚では、Reader’s Digestは一般的に言われているほど易しくはありませんし、TIMEは一般的に言われているほど難しくはありません。

多読の効果は?

このように、長いこと苦労しながらも続けてきた多読は、私の英語力向上に大きく役立ちました。
私自身が多読を通して得た効果を、以下にまとめてみました。

  1. 英語を読むことに慣れた。
  2. 理解度が増した。
  3. 単語帳を復習する必要がなくなった。
  4. 様々な知識が身についた。
  5. ネイティブの思考法が理解できるようになった。

1. 英語を読むことに慣れた。

単純なことですが、これが一番大きな違いです。
とにかく、英語を読むことに抵抗がなくなりました。
多読を始めてあまり期間が経っていない頃は、理解度もそれほど伸びていませんでした。
一方で、不思議なことに、あまり理解できない記事や小説であっても、読み続けることができるようになっていることに気づきました。
小さい子どもが、細部までわからなくても本を読み続けられるのと似た仕組みなのでしょう。

2. 理解度が増した。

英語を一定量読み続けられるようになって、理解度も少しずつアップしていきました。
この理解度という言葉も説明が難しいものなのですが、例えばTIMEを読んでいて、1冊の中でわかったと思える記事の割合がだんだんと増えてくる、そんなイメージです。
ですので、ある記事でほぼ完全に理解できた、と思っても、別の記事を読むと全く理解できないことも頻繁に起こります。

しかし、トータルで見ると、きちんと読めたと思える記事は明らかに増えていきました。
また、理解できていないと感じる記事でも、書き手の伝えたいことは大まかにつかめるようになりました。

3. 単語帳を復習する必要がなくなった。

多読だけで自然に語彙も増えれば良いのですが、残念ながら一定レベル以上の難単語は身につきませんでした。
ある時期、大学院のリーディング課題は全てこなし、TIMEで全ての記事を読む、という学習を1年以上続けましたが、英検1級の語彙問題で出題されるレベルの語は、結局覚えられていませんでした。
実際、英検1級対策として単語帳で学習した時、その中の7~8割の単語は知らなかったと記憶しています。

ところが、多読によって思わぬ効果がありました。
単語帳で覚えた単語を忘れなくなったのです。
ここまで読んだ方はわかると思いますが、私はあまり几帳面な性格ではありませんので、英検1級受験後、単語帳の復習は一切しませんでした。
しかし、TIMEを読んでいると常に覚えた単語が出てきて、(もちろん、意味が思い出せない時は辞書を使って確認したこともあります。)意識せずとも単語が定着したのでした。

英検1級合格後、2年以上経った時点で、受験当時に使用した単語帳を試しに一通り見直したところ、8割以上の単語を覚えていました。
母国語でも同じことが言えます。
常に単語帳で日本語の語彙を復習している人は、基本的にはいないはずです。
それは、日常生活で多くの日本語に触れていて、その中で自然と復習ができているからなのです。

そう考えると、単語帳での学習をひたすら続けることは危険なのではないでしょうか。
たくさんの単語を覚えると忘れたくない気持ちが強くなり、復習したくなります。
しかし、様々な文脈でその単語に出会っていないと、知識として定着はしません。
その結果、しばらくすると再び多くの単語を忘れ、また単語帳の復習を繰り返す。
いつまでたっても他の勉強に手がまわらない。
この負のサイクルにはまってしまうのです。

長文が苦手な人の多くは、単語学習に時間をかけすぎていることがほとんどです。
そのような人は、思い切って単語帳での学習をやめて、文章を読むことにシフトする必要があるでしょう。
仮に、1日1時間の単語学習を4カ月するとしましょう。
時間にすると100時間以上です。その時間を全て多読に使えば、TIMEに換算すると20冊は読めるのではないでしょうか。

もし、どうしても単語帳から離れることに不安があるのであれば、4カ月後にまた単語学習に戻れば良いのです。
まずは挑戦してみてください。

4. 様々な知識が身についた。

多読経験が長くなってくると、英語を勉強するためではなく、英語を通して何かを知り、情報を得るために英語を読むようになります。
すると自然に知識が増えていきます。
日本語でもそうですが、知識が豊富な人は、大量に本を読んでいる人であることが多いですね。
私の場合は、まだ不十分ではありますが、特にTIMEの多読によって様々な知識を得て、物事を深く理解できるようになりました。

5. ネイティブの思考法が理解できるようになった。

多読によって英語のインプットが増えることで、英語ネイティブの考え方、論理展開の仕方が理解できるようになります。
すると、英語らしい発想で表現ができるようになり、自分の言いたいことがきちんと伝わるようになります。
(難しい単語やイディオムを使いこなすこととは違う次元の話です。)

さらに、ノンネイティブが書く英語の不自然さがわかるようになります。
TIMEの読者コメント欄には日本人の投稿もありますが、TIMEを読み始めてしばらくすると、出だしの5、6語を読むだけで、書き手が日本人だと判断できるようになりました。
それほど、単語の使い方や論理構成が異なるのです。

もちろん、英語学習の目標はネイティブのようになることではありません。
日本人としてのアイデンティティを保ちながら英語も使いこなす、という姿勢が大切だとは思います。
しかし、日本人的な発想での英語にとどまっていては、相手のメッセージを正確に受け取れないし、伝えたいことも伝えきれません。
今後、国際社会で活躍していくためには、日本人特有の英語ではなく、どんな国籍の人にも伝わりやすい英語が求められます。
そのような英語力を身につける手段の一つとして、多読は非常に有効ではないかと思います。