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少し昔に英語を勉強した人であれば、クジラ構文という名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。大抵の文法書に以下の文が載っています。
A whale is no more a fish than a horse is.
馬が魚でないのと同様に、クジラも魚ではない。
この文の解釈方法で良く見かける説明は、「no moreを取り除き、thanを境にして文を前半、後半に分けて、どちらも否定で訳をする。noはイコールを表すので、同様に、と訳しておく」というものです。なぜそのような複雑なことを考えるのでしょうか。少なくとも私はこんなことを考えて読んでいませんし、当然ながら、この形が文章で出てきても問題なく理解できています。
もっとシンプルに考えればいいのです。例えば下の文。
Sleeping too much is no more healthy than eating too much.(総合英語FORESTより)
この構文に限らず、noという言葉は強い否定(決して~でない)を表すものです。そこで、no以外の部分を先に訳して、最後に「決してない」をつけます。
「寝過ぎることは食べ過ぎることよりも健康的である、ということは決してない。」
これで終わりです。上の日本語でわかるのであれば、そのままでかまいません。わかりにくいという人のために説明しておきますと、食べ過ぎることが健康によくないのは普通に考えればわかること(一般常識)です。そのような健康的でない行為と比べて、寝過ぎることが健康さで勝ることは決してない、と言っているのです。
結果的に、後半部分を否定で訳して、それと同様に前半もそうではない、という訳にもできます。「寝過ぎることは、食べ過ぎることと同様健康に良くない。」
参考書の説明が問題なのは、no more ~ thanの本来の意味を考えようともせずに、意訳した日本語を直接導こうとして、あれこれわけのわからない説明をしている点です。また、両方否定で訳すやり方では、文の意味が通じない場合も頻繁に見かけます。
例えば、以下の文。(英検1級の過去問の長文です。)以前は、バイキングは大変残酷だと思われていたが、最近見解が変わってきている、という話の一部です。
The Vikings were probably no more vicious than other armies of the age,
「バイキングはその時代の他の軍隊よりも残酷だった、ということは決してなかっただろう。」
軍隊は人殺しもするので、基本的に残酷なものです。ですので、「他の軍隊が残酷でなかったのと同様、バイキングも残酷ではなかった」では意味が通じません。
もう一例見てみましょう。The New York Timesに載っていたものです。
Intelligence, it turns out, may be no more vital to future success and happiness than stubborn persistence.
「知性というは、粘り強く続けること以上に、将来の成功や幸せに必要不可欠であることは決してないのだろう。」(この場合は、知性よりも粘り強く続けることの方が、成功や幸せに必要だ。の意味)
これを、受験公式に当てはめて両方否定で訳すと、「粘り強く続けることが将来の成功や幸せに必要不可欠でないのと同様、知性も必要不可欠ではない。」もはや意味不明ですね。
冒頭の文をもう一度見てみましょう。A whale is no more a fish than a horse is.
自然に意味をとれば、「クジラは、馬以上に魚であることは決してない。」ややわかりにくいですが、ここから、両方を否定で訳すこともそれほど難しくはないですね。
面白いことに、この表現は日本では構文(もしくは熟語)扱いされていますが、英英辞典や英語で書かれた文法書にはほとんど載っていません。おそらく、ネイティブの人たちは自然にそのまま理解しているのでしょう。
ちなみにこのクジラ構文、こんな表現はもう使わないから学習の必要がない、と考えている教員もかなりの割合で存在するのですが、実際そこそこ使われる表現です。少なくとも、高いレベルで正しく英語を理解するためには大切な表現です。