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2020年度からセンター試験に代わる試験として、現時点では以下の検定試験が認められたとの報道がありました。
・ケンブリッジ英語検定
・TOEFL IBTテスト
・IELTS
・TOEIC(4技能を含んだもの)
・GTEC
・TEAP
・英検
4技能を測定出来て、本来は良いニュースのはずが、耳にするのは否定的な意見ばかりです。今回は、約10年間中学・高校で指導をしてきて受験生の実態を知っている教員の一人として、別の観点から考察してみたいと思います。
問題点1 高校生に相応しいレベルではない
一番の問題は、ほとんどの試験が日本の高校生のレベルに合わせて作られたものではないことです。例えばTOEFL IBTを考えてみましょう。この試験は、アメリカ等の英語圏の大学に留学した際に授業についていく力があるかどうかを測定するために作成されたもので、日本の従来の大学入試問題に対応できる程度の力では、とても太刀打ちできないものです。語彙数だけをとっても、受験の最難関レベルに最低数千語は追加しないとリーディング問題は理解できないと言っていいでしょう。
英作文も同じです。英語の基本的な主語、動詞の構造を自ら書くことすらままならない受験生が、どうやって200~300語もの作文を書くことができるでしょうか。あるいは、TOEFLのリスニング問題が満足に聞けるのであれば、アメリカの大学にも入学できるはずです。満足に読み書きできない人が、(普段まったくと言っていいほど英語を使用しない環境で生活しながら)自分の意見を立派に述べることなどできるはずがありません。
別の例でたとえてみると、高校野球のバッターの実力を測るために、プロの一流ピッチャーと対戦させてレベル分けするようなものです。さらにそのバッター達は、甲子園に出場するエリートではなく、普通の高校で野球をしている人が大半という状況です。誰が考えても、ふさわしい方法ではありませんね。
結果として、帰国子女や英才教育を受けたごく一部の人のみが難しい試験で良い成績を収め、大部分の受験生は、比較的レベルが調整されていて受験しやすい英検やGTEC等に流れることになりそうです。(個人的には、TEAPですら一般の高校生には難しすぎると思います。)
問題点2 基礎がおろそかになる
4技能がテストされるのであれば、当然それぞれの技能を練習しなければなりません。しかし、例えばスピーキングだけを練習すれば、それだけスピーキング力が伸びる、というほど言語は単純ではありません。正しく話すためには、文法の知識はもちろん、高度な読解力、正確な発音、語彙力、背景知識等、様々な力が求められます。こういった能力は単に英語を話すだけでは決して身につかないのです。それこそ何年ものインプット中心の学習が不可欠です。そして、インプットを正確に行うためには、高度な文法、解釈の力が必要とされます。
4技能が強要されることによって、学校や塾はそれぞれの技能を教えるだけで精一杯でしょう。文法のしくみをきちんと教え、発音指導に時間をとるような機会がさらに減っていくことは想像に難くありません。おそらくほとんどの生徒は何をして良いのかわからず、スピーキング、ライティング答案の丸暗記に走ることになるでしょう。先程の野球の例で言えば、実戦形式のみを行い、素振り、ランニング、筋トレのような基礎練習をしない状態です。
一方、試験専門の対策塾が流行り、英語力がなくても点数がとれるようなテクニックの宣伝がますます増えていくはずです。表面上点数はそこそことれていても、実際に英語は使いこなせない、そういった人が増えていくように感じます。それが日本の求めている英語なのでしょうか。
決まってしまった以上、後戻りはできませんが、英語力を向上させる、という本来の目的を考えて制度を決めてもらいたいものです。