リスニング上達の過程

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リスニング上達の過程 ~上達し続けるためには?~

難しい英語を聞くことに意味はある?」で紹介しましたが、英語力を伸ばすためのcomprehensible inputは100%の理解を必要としていません。
このことを念頭に置いて、海外生活者がどのようなリスニングをしているかを考えてみましょう。

リスニング上達期

まず、海外に行った時点で、英語はほとんど聞き取れません。
なんとか理解できる部分を見つけながら相手に言い直してもらったりして、全体を推測しながらリスニングをしています。
この時に、リスニングのスクリプトを見ながら何度も英語を聞きなおす練習をしている人はほとんどいないでしょう。
するとしても、それはごくわずかな時間でしかありません。
基本は大量に英語を聞くことです。

このようなリスニングを続けていると、人にもよりますが、だいたい半年くらいたつと英語を聞き取れるようになってきた、と感じる人が多いようです。
前述した通り、約1,000時間のリスニングを経験した頃です。では、この後はどのようになるでしょうか。

リスニング停滞期

実は、順調にリスニング力が向上し続ける人はあまりいません。
単語が理解できない、前置詞や冠詞が聞き取れない、話されている話題についての背景知識がない、という状態では、理解度もあるレベルで止まってしまいます。

またこの頃になると、なんとか英語でコミュニケーションがとれるようになり、絶対に英語をものにしよう、という必死さがなくなってきます。
これ以上上達しなくても生活ができてしまうからです。
この状態から理解度をあげるにはどうしたら良いでしょう。ここでは、2つの方法を考えてみたいと思います。

解決策1. ディクテーション、シャドーイング、音声学

1つ目は、ディクテーション、シャドーイングを行うことです。
これによって、自分に聞き取れていなかった音がはっきりして、正確さが増します。個人的にはあまり好きではない学習方法ですが、英語を正確に理解する為に一定期間は時間をさいても良いでしょう。
発音の仕組みについて、音声学の本で勉強することも効果があります。

しかし、やり過ぎにはくれぐれも注意してください。
これらの勉強方法はcomprehensible inputの補助として用いられるものであって、リスニング学習の中心になるべきものではありません。
実際に私は、ディクテーションは大学1年の時に授業で1年間行っただけで、シャドーイングは気が向いた時にたまにするくらい(主に口を動かすことが目的)ですが、リスニングで困ることはほとんどありません。

解決策2. 多読

2つ目の方法は多読です。多読がリスニング力向上に役立つ理由はいくつもあります。
具体的には以下のようなものがあります。

  1. 文法の力がつく
  2. 全体を把握する力がつく
  3. 英語の処理速度が上がる
  4. 単語、熟語の知識が増える
  5. 背景知識が身に付く

1. 文法の力がつく

まず、多読によって文法力がつき、前後から弱い音の推測ができるようになります。
あまり自然とは言えない例ですが例えば、He is interested ____ music. という文があるとして、____ の部分の単語が良く聞き取れなかったとします。
文法や熟語の知識のない人の場合、____ に入るのが、an, on, in, and, endのどれかを判断することはできません。
しかし、知識のある人には簡単にわかりますね。
英語を聞いている時にこのような状況は多くあり、私たちは聞き取れなかった単語を無意識に文脈から推測して聞いています。

またこれは何も外国語に限ったことではなく、日本語でも日常的に行っていることです。
テレビの中継で音質が悪く、何度も音が途切れる場合がありますよね。
あの時、私たちは前後から入るべき語を推測して、全体を理解しているのです。
日本語を勉強している外国人にはあのような日本語を聞き取るのは非常に難しいでしょう。
多読は文法の面からリスニングをサポートします。

2. 全体を把握する力がつく

多読によって全体を把握する力がつきます。
多読では頻繁に辞書を使うことはありませんので、わからない単語は読み飛ばすか推測することが多くなります。
(実際には正しく単語を推測することは思ったよりも難しいという研究結果がでています。いずれ多読の項目で詳しく紹介します。)
それでも内容を理解できるようになります。
この全体を把握する力がリスニング力にも影響します。細かい部分では何を言っているかがわからなくなってしまっても、全体で言いたいことを把握できれば、その英語はある程度聞き取れていることになります。

3. 英語の処理速度が上がる

多読は、英語の処理速度アップにも効果があります。
たくさんの英語を読んでいれば読解スピードは自然に伸び、話し言葉よりも早いスピードで読むことができるようになります。
ネイティブの平均的な話すスピードは1分間に150~200語と言われていますので、1分間に200語以上の速さで読むことができれば、リスニングでも速さについていけなくなることが少なくなります。

私がTIMEの記事を1分間に200語(最も速い時)、易しめの読み物を1分間に250語の速さで読めるようになった時に、たまたま大学院の集中講座があり、2日間で12時間の英語を聞いたことがあります。
この時の先生は非常に早口で英語を話す人でしたが、リスニングがそれまでに比べてずっと楽だったことに驚いたのを覚えています。
多読による読解スピードのアップが、リスニングにも大きな効果をもたらしたようです。

4. 単語・熟語の知識が増える

単語・熟語を多く知っていればいるほどリスニングが楽になるのは当たり前ですね。
単語・熟語の知識を増やす最も効果的な方法の一つは、多読をすることです。
多読によって、短期間に大量の単語を覚えることは難しいですが、少しずつ着実に語彙力はアップします。

たくさん英語を聞くことでも単語や熟語が身に付くかもしれませんが、ノンネイティブにとって、知らない単語は音を聞き取るのも一苦労です。
よほど何度も耳にしないと、リスニングだけで単語を覚えるのは難しそうです。
辞書を使おうにも、スペルがわからずにあきらめなければならないこともあります。
その点、多読であれば目からの情報で語を確認できるので、新しい語彙を身につけるのは比較的簡単になります。

また、知っている単語でも意味を思い出すのに時間がかかるものは、多読を通して何度も見ることで瞬時に意味がわかるようになります。
リスニングでは、ある単語の意味を思い出すのに10秒もかけていられません。
すぐに意味がわかる状態の単語が多ければ多いほど有利です。

5. 背景知識が身に付く

最後に、多読をすることでたくさんの知識を身につけることができます。
おそらく皆さんも経験があると思いますが、自分の詳しい話題であると、英語自体があまり聞き取れなくても内容をほぼ全て理解してしまうことがあると思います。
逆に、背景知識が全くない話題だと、英語は全て聞き取れても何を話しているかさっぱりわからなくなってしまいます。
もちろん、たくさん英語を聞けばそれなりに知識はつきますが、多読の方がより多くの分野の英語に触れることができます。
それによって多くの知識が身に付き、リスニングの大きな助けになります。

量を最優先にする

長くなりましたが、あるレベルに達してからリスニング力を向上させるには、ディクテーションやシャドーイング等によって細かい部分の理解を深めることと、多読によって英語力自体を高めることが必要です。
これに加えて、ひたすら英語を聞き続けてください。
このようにすれば、リスニングの力は伸び続けていきます。
この勉強法では100%正確に理解することは必ずしも必要ではないことを確認してください。

私は大学1年の時にディクテーションをして以降、英語学習の8割以上は多読と多聴ですが(残りはテスト対策、スピーキング全般、大学院のレポートを書くこと)、リスニング力は今でも伸びていると感じています。

量を確保するには?

また、英語を聞く時は基本的に1度しか聞きません。
主にニュースの英語をポッドキャストで聞いていますが、わかってもわからなくても1度しか聞かないようにしています。
大リーグもNBAも1度しか観ません。
1度しか聞かないと決めておけば、繰り返す必要がないので量を確保できるということと、1度しか聞かないのが自然なことだと思うからです。

日本では1冊の教材を完璧に仕上げるまで次の教材に移らないことが良いこと、あるいは英語習得の絶対条件とされていますが、comprehensible inputの観点から考えると、あまり良いこととは思えません。
完璧主義の人であれば、同じ教材を完全に暗記してしまうくらいまで何十時間もかけて繰り返すでしょう。
しかし、その間に触れることのできる英語の量は限られています。

正確さを求めすぎず、たくさん聞くことを第一の目標としてください。
そうすれば、少なくともリスニングに関しては、海外で生活するのと同じような効果を得ることができます。