難しい英語を聞くことに意味はある?

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リスニング①
難しい英語を聞くことに意味はある? ~理論と私の体験~

日本の英語教育では、「意味のわからない英語をいくら聞いても効果がない」という考えが常識となっています。
その結果、リスニングの勉強法としてディクテーションやシャドーイングが必要以上に重視されたり、英語と日本語訳が吹き込んである英語教材に人気が出たりしています。
確かに、意味が全くわからない英語であれば、聞いても効果はあまりないと思います。
しかし、初心者は別にしてリスニングで理解度0%という状態はないでしょう。
たとえ全体の内容がわからなくても一部分は理解しているはずです。
少しでも理解できる部分があれば、それはリスニング力向上につながります。

Comprehensible Inputとは

Krashen(1985)のインプット仮説によると、子どもであっても大人であっても言語を習得するためには多くのinputをすることが不可欠です。
ここで必要となるinputはcomprehensible inputと呼ばれ、力を伸ばすためには「i + 1」のレベルのinputが効果的とされています。自分の現時点での英語力( i )よりもやや難しめの英語をinputする必要があるということです。
とすると、英語力を伸ばすためのinputでは、100%の理解は求められていないのですね。

海外長期滞在者の場合

帰国子女や長期留学(1年以上)をした人のことを考えてみましょう。
英語圏で生活している人は、よほど特別な場合を除き、ディクテーション、シャドーイング、音読をしません。
それにも関わらず、帰国後ほとんど対策をすることなく、TOEICのリスニングで450点以上を取る人が少なくないようです。
なぜ彼らは点数を取れるのでしょうか。

それは膨大な量の英語をinputしているからです。
少なく見積もって計算してみても、普通に生活していれば1日平均で6時間は英語を聞いているでしょう。
それが半年続けば6×180=1,080。1,000時間、耳からinputがあることになります。
もちろんその1,000時間の中には、理解できない英語や、非常に簡単な英語も多いでしょう。
しかし、i + 1のレベルの英語もたくさん含まれているはずです。

このcomprehensible inputの量の差が、留学経験者とそうでない学習者の一番大きな違いではないでしょうか。
(海外で生活していても語学学校に長年通うだけで、ネイティブの話す自然な英語にあまり触れていない人はi + 1のinputが少なく、TOEICのリスニングスコアもあまり高くないようです。)

私の留学でのリスニング体験

留学一回目

私の留学は全部で6ヶ月ですが、諸事情により4ヶ月留学した後日本に戻り、再びアメリカに行くまで2ヶ月間待たなければなりませんでした。
2度目は資格取得(TEFL Certificate)のためで、受講生の9割以上が英語のネイティブスピーカーです。
ノンネイティブがいても、語学学校のようにゆっくり簡単に話してくれることはありません。
しかし、4ヶ月間の留学で私は大幅な英語力の向上を感じていませんでした。

というのも、最初の3ヶ月は語学学校に通っていたからです。
まわりは私自身も含め、英語が決して上手いとは言えないノンネイティブばかり。
英語ではなく、アラビア語や中国語を聞く機会も多かったのです。
語学学校の先生もホストマザーも留学生慣れしているため、ゆっくり話します。

自然な英語(当時の私にとってのi +1が多く含まれている英語)を聞く機会は、映画を観る時、語学学校での個別学習の時間に大学講義ビデオを観る時くらいでした。
(もちろん、様々な国籍のノンネイティブの英語をこの時期にたくさん聞いたことは後で役立ちましたし、海外の語学学校でなければ決してできない貴重な体験でした。)

日本に一時帰国

その状態で日本に戻り、2ヵ月滞在してからTEFL Certificate取得講座に出ることが不安で仕方がありませんでした。
特に授業を聞き取れるかどうかが不安でした。そこで私は以下のようにして2ヶ月を過ごしました。

まず、なるべく自分の部屋にいる時間を多くします。
部屋にいる時は、聞いていてもいなくてもネットでCNNを流しっぱなしにしていました。
途中で眠くなってしまうことも多かったですが…また、映画やドラマを借りてきてそれぞれを繰り返し何度か観ました。

自分の部屋にいない時は、極力、日本語が耳から入ってこないようにしました。
もちろんテレビはつけません。テレビを観るとしたら、大リーグの中継を英語で観るだけでした。
野球ではイニングの合間が2分あきますが、当時は音声を英語にしていても、その間だけは日本語の解説が聞こえるようになっていました。
日本語をなるべく聞きたくなかった私は、その時間は必ず消音にしていました。

このような生活を続けた結果、日本にいる2ヶ月間、1日平均で5~6時間英語を聞く時間を作り出していました。
他にはあまり勉強する気になれず、リスニング以外の勉強はほとんどしていませんが、リスニングだけは続けることができました。
私が帰国した後もアメリカに残って、大量にinputを続けている人たちに負けたくなかったのです。
そして2ヵ月後アメリカへ向かいました。

留学二回目

驚いたことに、日本に戻っている間にリスニング力がかなり向上していました。
私が参加したTEFL Certificateコースでは体験授業を受け付けていて、1度目の留学の4ヶ月目に体験授業を受けたことが、そのコースに入る決め手となりました。
その時は、先生の話す英語が7割程度しか聞き取れませんでした。
しかし、日本で過ごした後では、同じ先生の英語を9割以上聞き取れるようになっていました。
日本での2ヶ月間が大きな効果をもたらしたのです。

2度目の留学期間は約2ヶ月。
帰国後もしばらくは同じようにリスニング中心のinputをしていました。
英語を忘れるのが怖くて、なるべく英語を聞く時間を取っていたことを覚えています。
そして帰国してから4ヵ月後、TOEICを受験しました。
留学開始からほぼ1年後です。リスニング対策としては、公式問題集Vol.1の模試1回分を解いただけですが、留学前と比べて80点アップの480点を取ることができました。
留学期間は半年であっても、リスニング力は1年留学したのに匹敵する伸びだったと思います。

留学から学んだこと

このように、私が大きくリスニング力を伸ばした場所は日本でした。
もちろん、ノンネイティブの英語や、ゆっくり話された英語を長時間聞いたことも役に立っていますが、それ自体でリスニング力が伸びたわけではなく、その後大量に自然な英語を聞くことで力がつきました。現在でも時間を見つけて英語を聞くようにしています。

長期留学者で、帰国直後には英語が良くできたけれども、何年もたってすっかり英語を忘れてしまった、というのは良く聞く話ですね。
これは、単に英語のinputをしていないからなのです。
私は留学後に多くのinput(リスニング、リーディングの両方)をした結果、帰国直後に比べ、あらゆる面において英語力が数段上がっています。

私が留学から学んだ一番大きなことは、時間さえあれば日本にいても大量の英語をinputすることは可能、ということです。
留学に比べお金もかかりません。
リスニングの勉強で1時間以上続けて英語を聞き続けた経験がない人は、ぜひテレビやネットの英語(できればネイティブ向けが好ましい)に数時間連続で触れてみてください。
毎日続けていくうちに大きな効果が得られます。

また、細切れでリスニングをして、トータルで毎日1~2時間勉強している人もいますが、私個人としては、なるべく一度に長い時間英語を聞いてほしいと思います。
やはりノンネイティブであると、英語に慣れるのに時間がかかるのです。
一度に10や15分聞いただけでは英語を効率よく処理できる状態にはなりません。
逆に1~2時間英語を続けて聞けば、その後リーディングをしてもスピーキングをしてもスムーズになっていることに気づくはずです。

英語モードになるには時間がかかる

2ヶ国語を高いレベルで扱うことのできる人は、そのレベルが高ければ高いほど、言語間の切り替えが素早く行える、ということを、バイリンガル教育に長年関わっているアメリカ人の先生から聞きました。
つまり、英語をかなりの程度扱えない限り、日本人が少し英語を聞いただけで英語モードになるのは難しいのです。

私は、TOEIC満点や英検1級に合格する力はつけましたが、それでも普段いきなりニュースを聞くと最初の数十分は英語が頭に入ってきません。
話す時も英語を長時間読んだり、聞いたりした後でないとスムーズに言葉が出てきません。
英検二次試験直前にしたことも、TIMEを読んで頭を英語モードに切り替えることでした。
まだまだ勉強が必要だと思っています。